社員も組織も破壊する賃金・人事評価制度の誤った常識|人事評価制度・賃金制度のノウハウ | 日本人事コラム

社員も組織も破壊する賃金・人事評価制度の誤った常識

成果主義はやる気と業績アップに効く、評価結果は賃金に反映すべきだ、いったん人事評価制度を導入したらやすやすと変えるべきではない……そんなふうに考えていませんか。実は、その思い込みが社員と組織を破壊するかもしれません。賃金・人事評価制度の誤った常識について解説します。

賃金・人事評価制度の誤った常識7選

社員のモチベーションはお金で上がる

1990年代前半から流行した成果主義的な人事制度により、「社員のモチベーションは報酬でコントロールできる」という考え方が広がりました。しかし、お金で動く社員は、お金で会社を去っていきます。社員をお金でコントロールしようとすれば、優秀な社員を失ってしまうことになりかねません。

「社員のやる気を報酬でコントロールする」ということは、「結果を出せば報酬が上がる仕組みを作ってやる気につなげる」ということになります。このような仕組みのなかでは、社員はより多くの報酬をもらうために頑張ろうとするでしょう。しかし、裏を返せば「報酬が上がらないなら、頑張ることはやめよう」という考えにつながってしまうのです。

昨今の経済環境を考えると、右肩上がりで成長を続ける会社のほうが少ないでしょう。総人件費を下げざるを得なくなると、成果主義にどっぷりハマっていた会社は致命的です。お金がモチベーションの源だった社員は、どんどん会社を去っていきます。

賃金が会社の業績を左右する

賃金の額が社員御モチベーションに影響し、会社の業績を左右するという仮説が正しければ、給与が高い企業ほど業績がよいはずです。ところが、実態はそうではありません。

百貨店業界一賃金水準の高いエイチ・ツー・オー・リテイリング(平均年収853万円)の営業利益率は2.0%(約107億円)、賃金水準第9位の丸井グループ(平均年収647万円)の営業利益率は6.0%(約243億円)。アパレルや家電量販店といった他の業界でも、賃金水準と営業利益にはほとんど相関関係がないのです。

評価結果は賃金に反映させなければならない

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評価を行ったら必ず昇給や賞与に反映しなければならないと、評価と賃金をセットで考えている経営者の方も多いのではないでしょうか。しかし、それでは人事評価制度の本来の目的、ゴールを誤認しているとしかいいようがありません。

人事評価制度の本来の目的は、「人材育成を通じた経営目標、ビジョンの実現」です。これを「賃金を決めること」と誤解していませんか。賃金への反映は、経営目標の達成のためのプロセスの1つにすぎません。賃金を上げることが経営目標達成に必ずしも有効ではないと判断したら、評価制度を賃金と切り離して運用することも必要なのです。

すでにインセンティブ制を取り入れ、賃金に大きな格差が出ているときや、評価を賃金に連動させると給与が下がる社員が多くなるような場合には、初めから評価と賃金を連動しないほうがよいと考えられます。社員のモチベーションに悪影響が出ることがわかりきっているからです。

また、「評価は人材育成のための仕組みである」ということを徹底して浸透させたい場合、あえて当面は賃金に反映させないことを明言して評価制度のみを導入するケースがあります。そうすることにより、評価制度の正しい目的を社員に叩きこむことができるのです。

評価者研修で評価スキルが身につく

社長は「D」をつけたのに直属の上司は「A」など、ある社員への評価にばらつきがあると、「標準的な評価のスキルを身につけるために、評価者研修を設けよう」と考える経営者もいることでしょう。しかし、これは間違った解決法です。

評価者研修をいくら実施しても、評価者間の判断のばらつきを解消することはできません。なぜなら、評価者研修で教わることと実際に部下を評価することには大きな開きがあるからです。理論的なことを理解しただけでは、現場での部下の行動に結びつけて適正な評価に反映させることは難しいのです。

評価者間のギャップを埋めるためには、実際の評価に基づいて、その判断基準のモノサシをそろえていくしかありません。育成会議で徹底したすり合わせを行うことによってしか、ばらつきが解消されることはないでしょう。

フィードバック面談とは評価結果を伝えることである

評価結果を本人へ伝えるため、フィードバック面談を行っている企業は多いでしょう。フィードバック面談の目的を、評価結果を伝えることと認識しているとしたら、それは誤解です。フィードバック面談の正しい目的は、評価結果に基づいて次の改善目標や課題を明確にし、成長を支援することです。

もしかしたら、「フィードバック」という言葉のイメージがこの勘違いを生むのかもしれません。「フィードバック面談」と呼ぶのはやめ、「育成面談」に変えましょう。より成長してもらうための面談であることを、全社員に叩きこむことが重要です。

一度決めた制度は変えてはいけない

人事評価制度は社員のやる気アップに効く仕組みですが、逆に社員のやる気を低下させてしまう場合があります。制度のルールを守っていると、社員のほとんどに厳しい点を与えざるを得ないときです。そのままでは、「減点方式の評価で、全く良いところを見てくれない」と不満が噴出してしまうでしょう。

反発が出ることが分かり切っている場合には、評価結果を調整してしまいましょう。制度のルールを臨機応変に破っていく柔軟さが、経営者には求められます。ルールを守ることと、社員のやる気、どちらを優先させるべきかは一目瞭然ですね。

うまく運用できないから導入しないほうがよい

せっかく人事制度を構築したにもかかわらず、うまくいかない部分があるから導入すべきではないのでは、と考える経営者も少なからずいることでしょう。しかし、一度運用してみてうまくいかないなら、不具合を少しずつ修正し、仕組みの改善によって自社オリジナルの人事制度を作り上げていけばいいのです。

改革に抵抗や不満はつきものです。課題が明確になり、解決に向けて進んだと考えましょう。

おわりに

人事評価制度の目的は、会社の業績を伸ばし、企業理念を達成すること。そう考えれば、昇給や賃金アップは必須のものではなく、また制度そのものを柔軟に変化させていかなければならないことがわかるでしょう。報酬アップありきの成果主義からいち早く抜け出し、社員が輝く評価制度を今から作り始めましょう!

人事評価制度の作り方を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

人事評価制度とは「人材を育成するための仕組み」、人事評価制度・経営計画の作り方まとめ

この記事を監修した人

代表取締役山元 浩二

経営計画と人事評価制度を連動させた組織成長の仕組みづくりコンサルタント。
10年間を費やし、1,000社以上の経営計画と人事制度を研究。双方を連動させた「ビジョン実現型人事評価制度®」を480社超の運用を通じて開発、オンリーワンのコンサルティングスタイルを確立した。
中小企業の現場を知り尽くしたコンサルティングを展開、 “94.1%”という高い社員納得度を獲得するともにマネジメント層を強化し、多くの支援先の生産性を高め、成長し続ける組織へと導く。その圧倒的な運用実績を頼りに全国の経営者からオファーが殺到している。
自社組織も経営計画にそった成長戦略を描き果敢に挑戦、創業以来19期連続増収を続け、業界の注目を集めている。
著書に「小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』(あさ出版)「小さな会社の人を育てる賃金制度のつくり方」(日本実業出版社)などがある。2020年2月14日に15刷のロングセラーを記録した著書の改訂版である「【改訂新版】3ステップでできる!小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方」(あさ出版)を出版。累計14万部を突破し、多くの経営者から注目を集めている。
1966年、福岡県飯塚市生まれ。

個人ブログ:https://jinjiseido.co.jp/blog/

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