経営計画書はA4用紙1枚でOK!10のステップに沿った作成方法
経営計画書といえば、分厚い資料を思い浮かべる人もいるでしょう。「経営計画書は、たった1枚でいい」と聞いたら、「情報を一枚にまとめられるわけがない」という声が聞こえてきそうです。しかしその1枚が、あなたの会社の運命を変えるかもしれません。A4用紙1枚の経営計画書を、10のステップで作成する方法をご案内します。
経営計画書の3つの目的
「会社は経営計画書を作成すべきです」というお話をすると、こんな反論が必ずあります。「こんな先が分からない時代に、将来の予測なんて立てられっこないよ」「どうせ計画を作っても狂ってくるんだから、つくらないほうがマシだ」。あなたも、もしかしたらそう思っているのではないでしょうか。
そこで、まずは経営計画書の必要性をお話しします。経営計画書をつくる目的は、以下の3つです。
会社の将来を社員と共有するため
私は仕事柄、クライアントの社員の方へヒアリングをすることが多々あります。すると、管理職の方も含めて、会社の方向性を理解できている人は「10人に一人いるかいないか」だと感じています。
これでは本来、社長が求めたい考え方や仕事が社員に浸透するわけがありません。社員のベクトルが合っていない状態ですから、当然、会社が目指すべき方向に向かっていく力は弱くなります。
その原因のひとつに、経営計画書が作成されていない、明文化されていないことが挙げられます。いくら社長が頭の中で将来のイメージを持っていたとしても、社員に日々伝えているつもりでも、「その思いの10%程度しか伝わっていない」ことをまずは自覚するのです。文章にして社員に渡すだけでも、伝わり方が10倍違います。
会社の発展のため
「こんな時代に先のビジョンなんて予測できるわけはないし、目標を決めても達成できるわけはないよ」とお考えの方には、私はこうお答えします。「社長、今のような時代だからこそ、経営計画書が必要なんですよ」と。
先行き不透明な時代だからこそ、将来を予測し、計画を練る。しかし、その目標は意に反して未達で終わる場合も多い。未達だからこそ、その要因を明確にし、足りなかった部分を次の経営計画書に盛り込むのです。
このような努力をするのとしないのとでは、会社の経営の安定度や発展性に差が出てくるでしょう。経営計画書を作成し、伝えていくことで、ビジョンの実現性は高まっていくはずです。
会社の価値を上げるため
経営計画書を作成したら、まずは社員に向けて発表することが大事ですが、できれば思いを共有する取引先にも渡します。ホームページや会社案内を通じて、顧客や地域の人にも伝わっていくでしょう。新入社員の採用時には、自社の理念や考えを伝えて、共感した人に入社してもらうようにしたいものです。
このように経営計画書を作成し、まわりに伝えていくと、自社に関わる人々に自然と伝わっていきます。そうすることで、社長自身の「実現しなければならない」という決意もさらに高まると同時に、まわりの励ましや協力もあって、実現に向けて確実に近づいていくことになるのです。
今後は、経営理念や会社の考え方が明確になっていない会社は、徐々に地域や社会に受け入れられなくなっていくでしょう。それを予感させるような不祥事が最近ではたくさん起こっています。会社の価値を上げるために、経営計画書を作成しましょう。
経営計画書をA4用紙1枚で作成する10のステップ
経営計画書をA4用紙1枚にまとめるには、コツがいります。経営計画だけではなく、人材に対する考え方やビジョンも1枚にまとめることで、人材育成に有効な資料として活用できます。「経営計画書」と「人材育成計画」を1枚にまとめたシートを「ビジョン実現シート」と銘打ち、次の10つのステップで作成を進めていきましょう。
ステップ1:経営理念を定める
経営計画書を作成するにあたり、まずは「経営理念」を定めます。経営理念の必要性については、さまざまな書籍で言い尽くされている感がありますし、多くの研修も行われています。しかし、経営理念を定めても、その活用に成功している企業はごくわずかであると感じています。
「経営理念」をつくる際は、他社の経営理念を数多く見た上で、自分の思いをできるだけ多く書き出すのがポイントです。そして、それをできるだけシンプルに表現した経営理念の案を作成し、「10年後も使える理念かどうか」を吟味して決定します。次の5つの手順に沿って考えてみてください。
- 手順1:他社の経営理念を数多く見る
- 手順2:社長の考えを書き出す
- 手順3:アウトプットした言葉をもとに3つの案を作成する
- 手順4:時間をおいて熟成・昇華させる
- 手順5:10年後も使えるかどうかを検証する
経営理念の具体的なつくり方や事例は下記の記事を参考にしてください。
実践的な経営理念の作り方、社員のやる気を引き出す経営理念作成 5ステップ&7つの事例を紹介
ステップ2:5つの質問で基本方針を定める
経営理念をどういう方針、どういう方向性で実現していくのか、会社の基本となる姿勢や考え方を「基本方針」として定めます。
もし「具体的な言葉が出てこない」と感じたら、次の5つの質問に沿って基本方針を作成してみてください。すべての質問に答えたら、答えをつなげて一つの文章にしてみましょう。そして締めに、「それらを通じて『経営理念を実現する』という形にしてまとめストーリーを作ります。
質問①:商品(サービス)について
「どんなレベル・質の商品(サービス)を提供(開発)しますか?」
「商品(サービス)に対するこだわりは何ですか?」
「どんな商品(サービス)でお客様や世の中に貢献しますか?」
質問②:【お客様について】
「お客様に何を提供しますか?」
「どうやってお客様から支持されようと考えていますか?」
「お客様にどうなってほしいですか?」
「お客様とどんな関係になりたいですか?」
質問③:【社員に対して】
「社員にどうなってほしいですか?」
「社員に対してどんな機会や環境を提供しますか?」
「社員とどうなりたいですか?」
質問④:【会社について】
「どんな会社にしたいですか?」
「会社を運営していくにあたってのこだわりは何ですか?」
質問⑤:【地域・社会について】
「どのように地域や社会から認められる会社になりますか?」
「世の中、地域経済や日本、他諸国にどのように貢献ができますか?」
基本方針は会社の姿勢・考え方ですが、ただ表現するだけではありません。社員はこれに基づいて行動し、お客様や部下へ伝え、会社もホームページや採用活動を通じて地域の企業や人々へ伝えていくものです。それを念頭に、内容や表現を考えましょう。
詳しくは、以下の記事もご参照ください。
経営理念を実現するための基本方針(経営方針)とは?作り方や事例を紹介
ステップ3:行動理念を定める
次に行動理念を作成します。経営理念の実現のため、社員にはどんな考え方でどう行動してほしいのかを明確にするのです。
社員たちは元々、仕事に対する考え方や関わり方、経験がバラバラです。しかし、組織をうまく運営していくためには、その社員たちが行う仕事のベクトルを一つに揃えなければなりません。そのための指針が、行動理念です。
行動理念は7~10項目ほど作成し、それぞれの表現を一文でまとめます。「基本方針」の実現に向けて「~するにはどう行動すればよいか」と、問いかけながら作成すると出てきやすいでしょう。何より、社員に行動してもらうためにつくるので、わかりやすい言葉で表現するのもポイントです。
行動理念の具体的なつくり方は以下の記事で解説しています。
行動理念とは何か?企業における役割と意味、その作り方を一から解説
ステップ4:人事理念を定める
人事理念は、会社の人材に対する根本的な考え方、スタンスを表現するものです。経営計画書を運用していくにあたって、根本的なエネルギー源になります。これまで考えてきた経営理念や基本方針、経営姿勢を実現するために、人材に対して会社はどのようなスタンスなのかを定めましょう。
「基本的な人材育成に対する考え方」「最終的に社員にどんな人材に育ってほしいのか」という2つの視点でキーワードをできるだけ多く書き出してみてください。その中から自社の理念の人材にぴったりあてはまるものに絞っていきます。
そうして洗い出したキーワードをできるだけシンプルにまとめてみてください。「自立型価値創造人材」や「一本の串に刺さった人材」など、社員に考え方が伝わるようにわかりやすい表現でまとめるのがポイントです。
人事理念については以下の記事もご参照ください。
経営・行動・人事理念を明確化すれば会社が変わる!中小企業が打ち立てるべき3つの理念を解説
ステップ5:「ビジョン」で10年後の会社を映像化する
4つの「理念」ができたら、目標を設定していきます。まずは「ビジョン」=「経営理念に到達する過程の会社の姿」を考えてみましょう。具体的には、5〜10年後の会社の将来像をできるだけハッキリと描けるように言語化していきます。
「ビジョン」は社長一人で考えず、リーダーと一緒に考えてみてください。リーダーたちの本音も引き出しながら話し合い、次の3つのステップに沿って練っていきます。
- 1.「ビジョン」を明確にする時期を定める
- 2.映像で見えるイメージを言葉にする
- 3.「ビジョン」としてまとめる(2の中から1〜5項目にまとめる)
社員がそれを目にしたときに、「こんな会社なら友達に自慢できる」「自社に勤めていることが誇りになる」「自社で働いていることを人に伝えたくなる」と実感でき、目指したくなる会社像にしましょう。
ステップ6:「10カ年事業計画」で「ビジョン」までのルートを数値で示す
事業計画の作り方については、これだけをテーマに何冊も本が出ていますから、ここでは省きます。私がアドバイスしたいのは、「10カ年事業計画」で「ビジョン」に到達するまでに業績を伸ばすための考え方です。3つのポイントをお話します。
1つめは、「売上」を「いくらにするか」ではなく、「どうやってつくっていくか」をわかるものすることです。具体的には、「商品」「顧客」「業種・業界」「エリア」「店舗」「営業所」などの区分ごとに売上をどう構成するかを考えていきます。いちばん力を入れる商品はどれか、もっとも成長の見込みがある顧客はどこかを決め、具体的に数値に落とし込んでみてください。
2つめは、未来にむけてどのような投資を行っていくかを明確にすることです。「ヒト・モノ」の中でどこに「カネ」を投資するのかなど、将来の成長に必要な投資を明示します。具体的には、「育成投資」「採用投資(ヒト)」「開発投資」「設備投資」「IT投資」「広告投資(モノ)」などを考えていきます。経理上の科目分類にこだわらず、何にどれだけ投資するのかを社員にわかるようにしてください。
3つめは、社員(パート・アルバイト)をどのように採用・配置していくかを計画することです。具体的には、「人員計画」を作成します。人員計画は、年度ごとの採用と各部署の人員構成を明確にしたものです。先に作成した売上計画を実現するためには何人採用して部署の配属をどうする必要があるかを考え、人員計画に落とし込んでいきます。
これら3点を「10カ年事業計画」に盛り込むことによって、「ビジョン」実現に向かうプロセスを社員に明示するのです。
人員計画の作り方は以下の記事も参考にしてください。
人員計画・要員計画の考え方とは?要員計画にもとづいた戦略的採用
ステップ7:「戦略」で「ビジョン」実現の手段・手法を具体化する
「10カ年事業計画」で「ビジョン」までの業績目標を明確にしたら、次はどうやってこの業績を達成するのか、その手段・手法を考えていきます。これが「戦略」にあたります。
具体的には、1〜3年先の業績目標をもっとも効果的に達成するための「打ち手」を「戦略」として明確にします。「戦略」がしっかり立案・実行できていないと「ビジョン」への到達が遠のいてしまうので、「戦略」の立案・実行・進捗管理は非常に重要です。
実は中小企業の「戦略」は共通していることが多く、私がコンサルティングをしてきた約450社が成果を上げた戦略は、業績や業態、地域などに関わらず、結果として半分以上が同じものでした。ここではその経験を元にまとめた6つの戦略をご紹介します。
- (1)顧客戦略
【戦略例】
顧客情報管理・活用の仕組みづくり
顧客育成の仕組みづくり - (2)営業戦略
【戦略例】
営業プロセスの標準化
営業ツールの整備
販促・プロモーションの推進 - (3)営業戦略
【戦略例】
人事評価制度の導入・運用
要員計画に基づいた戦略的採用
幹部・リーダーの計画的育成 - (4)組織戦略
【戦略例】
会議・コミュニケーションツールの整備
マニュアル・手順書の整備 - (5)IT戦略
【戦略例】
ホームページ・SNSの活用
社内システムの整備 - (6)商品戦略
【戦略例】
商品企画・開発プロジェクト
商品ランク分類
生産計画と実行
6つの戦略の詳細は拙著『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』で紹介していますので、ぜひあわせてお読みください。
小さな会社は経営計画で人を育てなさい
ステップ8:「現状の人材レベル」で課題をつかむ
ここからが一般的な経営計画書とは違って「ビジョン実現シート」を通じて人材育成を促すためのオリジナルノウハウです。この部分まで踏み込んだ経営計画書は、他にないでしょう。
現在の社員の「弱み・課題・問題点」と「強み・長所」を社長と幹部、リーダーで出し合います。それが「現状の人材レベル」です。具体的には、集まったメンバーそれぞれが考えたものを一覧にし、同じ内容のものを整理・統合していきます。このとき、「実務面」と「意識面」、「強み」と「課題」でマトリックス(2つ以上の要素をかけ合わせた表)を作成にして一覧にするのがおすすめです。
多くの中小企業で「一生懸命」「まじめ」という「強み」が出てきますが、なぜこのような社員が多いにもかかわらず、課題が山積しているのでしょうか?それは会社が成長に結びつく教育をしてこなかったからです。役割や具体的な目標を与えれば、一生懸命でまじめに取り組んでくれるので、成長する社員が増えていくでしょう。
「我が社の人材育成は課題ばかり」と嘆く社長もいるかもしれませんが、そのぶん伸びしろが多いということだと、考え方を切り替えましょう。
ステップ9:10年後の社員人材像を具体化する
次に10年後の人材像を設定します。「10カ年事業計画」と「ビジョン」を実現するには、どんなレベルの社員に成長してもらう必要があるのかを明確にするのです。「現状レベルの問題点を解決するにはどんなスキルが必要か」という視点で考えるのがいいでしょう。
これまで作成してきた「10カ年事業計画」「ビジョン」「戦略」「現状の人材レベル」を見ながら、短い単語でいいので必要となるスキルや知識などを書き出してみてください。書き出した単語を近い要素ごとにグループ分けし、グループごとの単語をつなげて文章にしてみましょう。
人材のレベルイメージを伝えるために文末は「〜人材」という表現にし、「得た情報を仕事に活用できる人材」など、求めるスキルごとにシンプルな一文で構成するとわかりやすいでしょう。
社員に求める項目は多すぎると覚えきれず、どれも中途半端になる恐れがあります。リーダーに向けては3〜5項目、全社員に向けては5〜10項目程度にまとめるのが理想です。
ステップ10:ギャップを埋めるための課題を書き出す
現状の人材レベルと、10年後の社員人材像のギャップを埋めるために、何をやれば良いのかを明確化します。ギャップを埋めるための必要な課題は、評価基準や社員教育に落とし込んで成長支援を行っていくため、できるだけ必要なスキルや役割を”具体的に”表現しておきましょう。
また、一般職と管理職は別々に求めるスキルを明確化しておきます。それぞれに求めるスキルレベルが違う可能性があるためです。課題がクリアできれば現状の人材レベルが上がっている可能性があるので、毎年、確認・チェックを行って解決・解消できた項目を消し込んでいき、新たな課題ができれば追加して理想の人材を追求していきしょう。
おわりに:経営計画書は人材育成と連動させて考えるのが吉
以上のような「ビジョン実現シート」をつくることで、社員が経営計画書の内容をしっかり理解し、人材育成戦略に沿って行動してくれるようになります。すると、計画内容を着実に実行することにつながり、「机上の空論」と捉えられがちな経営計画書が、実体を伴ったものになることでしょう。
経営計画書を作成する際には、ぜひビジョン実現シートをご活用ください。そして、できあがったビジョン実現シートと連動させる形で人事評価制度を作成すれば、さらに人材と会社の成長速度はアップします。経営計画と人事評価制度を連動させた「ビジョン実現型人事評価制度」については、以下の記事をご参照ください。